山桃の木:星合孝男(高2回)

昭和二十年初夏のことであった。
上級生たちは勤労動員で工場に行き、香貫の校舎には、一、二年生しか登校していなかった。
私たちは、玄関前の築山にある山桃の木に登り、実を貪っていた。
当時は、菓子などは勿論、主食にも事欠く終戦間際のことであった。
そこへ、先生のお一人が姿をお見せになった。私たちは山桃を食うのを止めた。
すると先生は、「一寸持て。」とおっしゃり、小使室から笊(ざる)を持って来られ、木上の私たちに「山桃をこれに採ってくれ。」とおっしゃったのだ。
その後どんな事が起こったのかその時の記憶は定かではないが、先生はかなりの量の山桃が入った笊を抱えて、職員室に帰って行かれたのではないかと想像する。

昭和四十二年、岡宮への校舎移転の頃耳にした話であるが、新校舎の庭に香貫から少なからずの樹木が移植されるとの事。さすが生物に詳しい石内吉見先生のご指導によるものではないかと私なりに想像していた。
竣工移転の後、新校舎を訪れる機会があった。そこで私は、校舎の庭に山桃の木を発見した。早速、石内先生にお尋ねすると、「香貫から持ってきた物である」と言われた。私は、“あの築山の山桃だ”と思った。
人間の寿命は随分伸びたとは言え、山桃のそれには及ぶべくもない。既に卒業された方々も、岡宮の現校舎の一隅には、黙してはいるがこんな歴史を持っている植物が存在することを是非伝えていただきたい。

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